金曜日, 7月 31, 2009

箱根山


 「Tokyo Railways コンピュータ版」の追加マップで箱根を作ろうと思い、いろいろと調べています。
 箱根は東急+小田急+箱根登山 vs. 西武+プリンス+伊豆箱根 という陣営に分かれて箱根山戦争とよばれる激しい競争を繰り広げた場所なのですが、その話を題材にした小説として獅子文六作の「箱根山」というものがあります。この本は残念なことに絶版になってしまっていて、買うことができなかったのですが、地元の図書館を検索したら蔵書にあったので借りてよんでみました。
 でも実はこの小説では、東急対西武の争いというのは冒頭で扱っているだけで、背景として使っているだけなんですね。
 小説の中では、社名や個人名はモデルとして仮名に変えて登場させているので別の名前になっているのですが、小説の話に絡んでくるのは小涌谷に小涌園をつくって殴りこんできた第三勢力・藤田観光と、江戸時代からの歴史を誇る「芦刈温泉」の2軒のホテルです。
 話の筋としては江戸時代からそこいらじゅうでケンカが続いている箱根という土地柄のなかで、150年間争ってきた2軒のホテルを舞台としたロミオとジュリエットといえばわかりやすいですね。
 でも面白いことに、この話のロミオとジュリエットは古いしきたりなんかまったく気にしない。まだ10代の二人は10年たてば代替わりするだろうからその時までにホテル家業を学んで両者を統合すればいいという考えで、両家の関係なんかまったく問題にしていない。
 でもジュリエット側のホテルはやる気をなくしていて、ロミオ側のホテルは跡取り問題で困っているところに火事が重なって、経営者の老婆が寝込んじゃう。そこにつけこんで藤田が買収を狙ってくる。両家は闘争心を失って和解に向かい、若い二人には有利な状況になっていくのだけど最後にとんでもないどんでん返しが待っているという話。
 ハッピーエンドなんですが、戦争は続くという不思議な終わり方で、最後は畳み掛けるような展開で非常に面白かった。

 この話のすごいところはメインの登場人物の2人とその家族はフィクションだろうが、面白いことにそれ以外の話はちゃんと全て実話を基にしているところでしょう。
 江戸・明治・大正・昭和・戦後と続く箱根の過去の歴史なかのさまざまな逸話がちゃんと事実を基にしている。
 舞台となる「芦刈温泉」は話の情景説明から「芦之湯温泉」に間違いない。少なくとも箱根の地理に明るい人間なら、小涌園から明治に作った道で芦ノ湖へ行く途中にある箱根七湯のひとつといわれたら、すぐここが頭に浮かぶはず。箱根駅伝で坂道を登り終えて、湖畔に向かって下っていくときの頂上付近にある温泉だ。
 そこにはちゃんと小説と同じように江戸時代から続く2件のホテルが建っていて、ホテルの作りも話と一致している(もちろん古い話だから立て替えている部分もあるだろうが)。
 片方のホテルは戦時中に船が横浜で事故に会って沈んでしまい、帰れなくなったドイツ兵達が収容されたという話が出てくるが、これもちゃんと実話。
 もう片方のホテルには戦前の政治家達が愛用した離れがある別館が出てくるがこれもちゃんと今もある。
 話の最後にそのホテルで新しい温泉を掘り当てるのだけど、ホテルのホームページを読むと、2つの源泉があると書いてあって、ちゃんと話と一致している。

 で、話は非常に面白かったのですが、ゲーム作りの資料になったのかというと、こっちはぜんぜん駄目でした。
 でも久々に箱根に行ってみたくなる話しでしたよ。
 こういう面白い小説が絶版なのは残念ですねえ。

追記
 読んでるときにはホテルの家族はフィクションだと思ってたのですが、後でちょっとネットで調べてみたら、少なくともジュリエット側のホテルの主人は実在人物のモデルがちゃんといました。小説ではこの人は考古学の趣味を持っていて、小説の最後の方で考古学的な大発見となる遺跡を見つけるのですが、ちゃんとこの遺跡は実在していて、本当にこのホテルの主人が見つけてるんですよ。朝日遺跡という遺跡で、神奈川県で最初に見つかった旧石器時代の遺跡らしいです。
 こうなると、ロミオ側のホテルの主人や番頭にもモデルの人物がいそうですねえ。
 いったいどこまでが実話なのか興味が沸いてきました。
 

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